「Spec駆動」とは、「Specification-Driven Development」の略で、ソフトウェア開発の初期段階で「仕様(Specification)」を明確かつ構造的に定義し、その仕様を開発の軸として進めていく開発手法です。
近年、特にAIを活用した開発ツールや、AIエージェントの登場によって再注目されています。
Spec駆動の基本的な考え方
Spec駆動開発の最も重要なポイントは、コードを書く前に「何を、どのように作るか」を徹底的に言語化・文書化することです。
従来の開発手法では、いきなりコーディングを始めたり、要件定義が曖昧なまま進められたりすることがありました。その結果、「仕様と実装の乖離」「変更への対応が困難」「ドキュメント不在による保守性の低下」といった問題が生じがちでした。
Spec駆動では、これらの問題を解決するために、以下のような流れで開発を進めます。
要件定義: システムが満たすべき機能や振る舞いを詳細に文書化します。ユーザーがどういった操作をするのか、エラー時にはどう振る舞うのかなどを明確にします。
設計フェーズ: 要件に基づいて、APIのスキーマ、データベースの設計、コンポーネントの構造など、具体的な設計書を作成します。
実装: 上記で定義された仕様と設計書に基づいてコーディングを行います。
テスト・検証: 仕様書に基づいてテストケースを作成し、実装されたコードが仕様通りに動作するか検証します。
AI時代におけるSpec駆動の進化
AIの進化により、Spec駆動開発は新たな次元に入っています。
これまでは人間が手動で仕様書を作成する必要があり、その作業負荷が課題でした。しかし、AIツール(例:Kiroなど)が登場したことで、以下のような新しいワークフローが生まれています。
自然言語による仕様生成: 開発者が「商品レビュー機能を追加したい」といった簡単なプロンプトをAIに与えると、AIがその要求を分析し、要件定義書、設計ファイル、タスクリストといった一連のドキュメントを自動的に生成してくれます。
仕様書からのコード生成: AIは生成された仕様書を基に、より正確で高品質なコードを自動で生成できるようになります。これにより、開発者は詳細なプロンプトを都度書く必要がなくなります。
開発フローの強制: AIと連携するIDE(統合開発環境)が、要件定義→設計→実装というSpec駆動のフローをUI/UXレベルで強制することで、開発者が一貫したプロセスで開発を進められるようになります。
Spec駆動のメリット
品質の向上: 開発の初期段階で仕様を固めるため、手戻りやバグの発生を減らすことができます。
チーム開発の効率化: 明確な仕様書があることで、チーム内での認識の齟齬を防ぎ、スムーズな連携が可能になります。
保守性の向上: 仕様書がドキュメントとして残るため、後から参加したメンバーでもシステムの全体像を把握しやすくなります。
AIとの協業の最適化: AIが仕様書を理解することで、より精度の高いコード生成やタスクの自動化が可能になります。
まとめ
Spec駆動は、「コードを書く前に、まず仕様を明確にしよう」という考え方に基づいた開発手法です。
特に、AIエージェントの活用が普及する中で、人間は「何を、なぜ作るのか」という上流工程に注力し、AIに「どうやって作るのか」という下流工程を任せるという新しい役割分担が生まれてきています。これにより、Spec駆動は品質、効率、保守性を高めるための重要なアプローチとして、再び脚光を浴びています。